stressについて(2) 

ストレスについて考える

ストレスについて(2) 2024/9/17

ストレスという一語に内包されがちですが,少し丁寧にストレッサーとストレスを分けてみます.ストレッサーとは,少しハンス・セリエに立ち返って伝統的に考えると1),心身に課せられる要求や外部からの刺激などで身体に反応のあるストレスという状態を惹起するものと定義されましょうか.少し冗長になってしまい心苦しいですが,身体の反応というストレスの状態に注目する古典的,伝統的な視点からは苦悩のような情緒的なものは重要なストレッサーとなります.さらに,そうした情緒を生じやすい職業等もまたストレッサーと言えます.

あれっ?と思われた方もいらっしゃるかもしれません.私たちの感覚では,情緒的な苦悩,さらには不安や緊張のようなものがむしろ,ストレスという状態に含められるもののように感じます.この辺りのことを身近な例で大まかに,①仕事・学校→②苦悩・不安・緊張→③身体の反応というプロセスで考えてみると,③の身体の反応がストレスで,『①仕事・学校と②苦悩・不安・緊張』がストレッサーということに,もともとはそう整理されていたのだろうと思います.それが,『②苦悩・不安・緊張→③身体の反応』がセットになって,ストレスと捉えられるようになったのではないでしょうか.

敢えて②苦悩などをストレッサーと定義し続けるとすると,身体の反応に至る直接的な(あるいは一次的な)ストレッサーとして情緒的なもの,さらにその背景にある間接的(二次的な)ストレッサーとして仕事や職業などがある,とも考えられ,最近の私たちの感覚としても理解しやすいと思いますし,認知行動療法の枠組みでも考えやすくなるかもしれません.例えば,不安や緊張をストレッサーとして,不安や緊張に至るもう一つ前の事々くらいまでをストレッサーと見据えて考えておくと,対処法にまで考えが及びやすくなる気がします.身体の反応は,自分の意思で制御しにくいですが(自分の意思で炎症を起こすなどは難しそうです),身体の反応に較べればまだ,情緒的なテーマは多少私たち自身で操作できる気がします.

1)ハンス・セリエは生理学者らしく,身体の化学的な反応を強調しているように見えます.「ストレスとは,生物組織内に,非特異的に誘発された,あらゆる変化からなる得意な症候群の示す状態のことである」と,ストレスを規定しています.中でもとくに,炎症という傷害に対する能動的な反応にも目を向けているのは,当然という声も上がりそうですが,卓見と言えるように個人的には思います.

≪参考文献≫

中島義明,安藤清志,子安増生,坂野雄二,繁枡算雄,立花政夫,箱田裕司.(編).(1999).心理学辞典.有斐閣.

Selye, H.(1976).The Stress of Life, revised edition.New York: MacGraw-Hill.セリエ,ハンス.(訳)杉靖三郎,田多井吉之介,藤井尚治,竹宮隆.(1988).現代社会とストレス.法政大学出版局.

*検討しながらの論考のため,加筆・修正の可能性があります.